2005年7月
7月19日 向かって左がマームード・アスガリ(16)、右がアヤズ・マルホニ(18)。イラン北東部、マシャド市エダラット広場での公開処刑の現場です。エダラットとは現地の言葉で「正義」の意だそうです。
「クライム・オブ・ホモセクシュアリティ(同性愛という犯罪)で絞首刑」というこの英語ニュースはイランのファルシ語から翻訳され、執行5日後にはテヘラン発のAP電で配信されるに至りました。それはたちまち欧米のLGBT関連ウェッブサイトで問題になり、時を隔てず日本のLGBTブロッガーたちの間でも引用・言挙げされたので目にした人も多いでしょう。
2人の罪状をめぐって、ところが議論が巻き上がりました。初期の翻訳テキストにあった「クライム・オブ・ホモセクシュアリティ」とは具体的に何を指すのか。両被告はほんとうに同性愛者だったから処刑されたのか?
私は英語の翻訳情報に頼るしかないのですが、ニュース取材・分析の長年の経験から言って、じつは正直、わかりません。
欧米への最初の情報源の1つは「イラン学生ニューズ・エージェンシー(ISNA)」という、ウェッブサイトに故ホメイニ師の肖像を掲げる報道機関からのファルシ語のニュース記事だったようです。それを何人かの国内外のブロガーおよび英国のゲイ人権団体「OutRage!」などが英語に翻訳した。その段階では罪状内容は詳細ではなく「強制的な同性愛性行為」とか「13歳の少年への同性愛性行為に基づく性的暴行」とのみ表記されていました。
その後さまざまな情報が錯綜しています。「両被告の13歳の少年への性的暴行が、他3人(他説では5人)と共謀したナイフで脅しつつの輪姦だった」「輪姦の前に被告たちは少年の自転車を盗み、飲酒もしていた」「被告ら輪姦者グループはイラン南部の少数民族の住む地域からマシャドの貧困地域、学校教育もないスラムに移ってきた少年たちだった」。逆に「13歳の少年は合意の上で性行為に加わった」というものもあります。だが「13歳という年齢は性行為の承認年齢に達していないため自動的に強姦罪が適用された」。あるいは「13歳の少年の父親はその地方のイスラム革命防衛隊の幹部で裁判に圧力をかけた」という話も。
どれが正しいのか、正直、私には検証できません。ブログとトラックバックとコメントとが錯綜していてどれが裏取りできている情報なのかも混乱する一方、イランのような情報統制の国ではそういったアマチュア個人ブロガーたちの情報発信が頼りでもあって、経験と資金のある大手報道機関もそう役に立たない。こちらのゲイ人権団体のいくつかと話もしてみましたが、彼らの情報源も私と似たようなものなので検証にはなりません。遅ればせながらNYタイムズも7月29日付けで処刑を報道しましたが、「同性愛」という単語は1度も使わず、「13歳少年への性的暴行」としか説明しませんでした。処刑の背景が同じくよくわからなかったのでしょう。
ところで犯行時はいまから14カ月前です。すると処刑された彼らは当時15歳とか17歳(2被告は処刑時18歳と19歳という説もあり)。むしろこれは国際条約で禁止されている18歳未満の未成年者への死刑執行ということが問題なのではないか。さらにこれが若い男性集団による性行為だとすれば(強姦だとしても)、被告らは私たちが定義するような「ゲイ」ではないのかもという気もします。ただし、同性間の性行為が介入したことに対するホモフォビアが、彼ら未成年者により厳しい刑の執行をもたらした恐れも否めない。またそのホモフォビアがイラン国内での報道で実際の罪状よりも「同性間」性行為に非難の焦点を当て、逆にそれが欧米の目には人権侵害の格好のネタとして映った可能性もある。
いろいろな問題がこの件に絡まっています。
イランでは性交に及んだ者は絞首、石打ち、刀剣による体の分断、高所からの突き落としのいずれかの方法で死刑。血縁関係にない2人の男性が正当な理由なく裸で一つ布団の下にいたら判事の自由裁量による懲罰。肛門性交ではなくいわゆる素股行為をしていても両者はともに鞭打ち百回。片方がイスラム教徒でない場合は死刑も適用。素股での4回の摘発では自動的に死刑。欲望をもっての同性間のキスも違反です。
もともとペルシャ文化を引き継ぐイランでは男性同士のキスや手をつないでの散歩は日常茶飯事だったのですが、ホメイニ以降のこのイスラム原理主義体制によってそうした慣習も消え去っていきました。
イランにゲイ弾圧は厳格に存在します。シェイダさんの件もありました。そういう問題をしっかりと批判するためにも、事実は事実としてきちんと腑分けしなくてはならない。その上で、ゲイであろうとなかろうと、今回処刑された若い2人がホモフォビアに力を借りた権力の犠牲者であることに変わりはないと私には思われるのです。そのことに、深い悼みと怒りとを禁じ得ません。
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この件がこれほど話題になったのはこれら写真の衝撃度に依るところが大きいでしょう。しかし写真がなくとも同じ7月、ナイジェリア北部のイスラム法廷では、50歳の男性が同性間性交の罪で石打ちによる死刑判決を受けています。さらに別の2人(40歳と18歳の)が同じく投石による死刑宣告に直面してもいます。
ナイジェリアは人口1億2900万というアフリカ最大の国です。うちイスラム教徒が50%、キリスト教徒が40%、土俗信仰が10%。イスラム教徒は北部ナイジェリアに固まっています。その北部12州は00年からイスラム法であるシャリアを採用していて、それはイランと同じです。
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もう1つ気がかりなことがあります。多大な犠牲をいまも払いながらブッシュ・アメリカがフセインから“解放”してやったイラクではいま女性の権利を大きく制限するシャリアを基にした新憲法が作られようとしています。女性は家族の承認がなければ結婚できず、夫は妻に「離婚だ」と3回言えば離縁できる。女性の国会議員の数も制限される。何のための“解放”だったのでしょう。
女性の権利制限とゲイへの弾圧は同じコインの表裏です。2年前、イランでは16歳の女の子が婚前性交の罪でやはり死刑になっています。
現在、世界では約70カ国で同性愛は犯罪です。うち12カ国では死刑も適用されています。日本でも、「同性愛は異常だと学校で教えよ」と唱える派が力を持ちはじめています。
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